白土三平先生からのメッセージ

アックスvol.109(追悼 水木しげる)より抜粋


こどもに夢を ・・といわれますね。ぼくは、社会に出るとダメになる夢じゃなく、世の中の風雪に耐えられる夢を与えたいんです。

僕の持論は、生活は喜びでなければならない、ということで、描きたいのは、その喜びを求めて力の限り闘った人間です。

だから、あるときには残酷と思われるほどリアルにもなるんですね(「『正義の味方』を否定するーマンガ家・白土三平氏ー」/ 『アサヒグラフ』朝日新聞社・1964年12月25日号)


ーインタビュアーに向かってー

(三平先生)

お前、今、何を考えている。

何を作ろうとして、何を書こうとして、何を残そうとして、自分が生きてきた中で、将来に対して、何を次の世代に残そうとしているかって、その問題を聞きたいわけ。


(インタビュアー)

自分は、昔、編集者をやっていて、劇画研究もやっているが、自分自身で何か表現しようという気持ちはありません。偉人達の絵草紙屋でいいと思っていますし、それによって作家や作品が将来に残る事に多少なりとも貢献出来ればそれでいいと思っています。


(三平先生)

それは汚いんだ。

自分で表現する世界ってないの?人間さ、やっぱり自分の得意とする技でさ、訴えていく、表現していくってことがないと、一生って限りがあるから、そこの世界を俺は知りたいわけ。

あなたは作家研究をやっているわけでしょう?あなたは自分が付き合ってきた作家の人生を調べて書いているわけですね。

人の人生の浮き沈みからいろんなことを書くことで、マイナスに働いちゃいけないでしょう。


俺は簡単に聞きたいのは、前の世代がいて、それから新しく未来を動かしていく若者の世代がいて、世代間の思想的な考え方、それをどうやってつなげていくかっていうのをやらないといけないんじゃないか。

それはあなたの世代じゃないかと思うんだ。若い世代が無思想になってる感じを受けるんですよ。感覚として。

そのときに、思想ってものは何なのか、昔のマルクス主義とかじゃない思想ってものを次の世代に伝えることが希薄になっているという気がする。

私らの世代だとマルクス主義が被ってたから、そこに捉われるとヤバイんです。それで見えていない部分もあった。偏った世界っていうのは、新しいものを生み出せないんです。それは政治だけじゃなくて、俺は絵描きだから想像の世界、芸術の世界でもそれはあるわけ。

それを超えた新しい思想を生み出さないといけない。コミュニズムでもないし、資本主義でもない、新しい思想です。

人生の、社会の目的ってさ、みんなが働いて、幸せに生きる、ただこれだけでしょう。

俺の後継者はさ、もっと違ったかたちでマンガを描いていくと思う。漁師だってそうだからね。


・・・私が5歳とか6歳の頃に、自分のお弁当箱のイラストを描いていたことから始まった、三平先生と私の付き合い。

40年を経て、今もなお、私の、そして皆の在り方の指針を示してくれている三平先生。

この三平先生からのメッセージに感動するのは、私のようなファンだけなのでしょうか?