チャンパの花
ただちょっとたわむれに、ぼくがチャンパの花になってあの木の高いこずえにさいて、風の中で高わらいしてゆすれ、新しくひらいた葉っぱの上でおどったとしたら、かあちゃん、かあちゃんにはぼくがわかって?
かあちゃんはよぶでしょう。
「ぼうや、お前はどこにいるの?」って。
それでもぼくは、ひとりでわらってじっとだまっている。
ぼくはこっそりぼくの花べんをあけて、かあちゃんがおしごとなさるのを見つめている。
ゆあみのあとで、かあちゃんはぬれたかみをかたにひろげ、チャンパの木かげをあるいて、中庭にあるお宮においのりにいく。
かあちゃんは花のにおいに気がつくけれど、それがぼくからでるにおいだとはしりません。
おひるのあとで、かあちゃんはウーマーヤナを読みながら、おまどのそばにすわります。
この木かげが、かあちゃんのかみやひざの上に落ちて、かあちゃんの読んでいるご本のページの上に、ぼくのちっちゃなかげを投げかける。
でもかあちゃん、かあちゃんは、それがあなたのかわいい子の小さなかげだと気づくかしら?
夕方になって、かあちゃんが、ともしたランプを手にして牛小屋へいくとき、ぼくはいきなり大地の上に落ちてきて、もう一度かあちゃんのこどもになろう。そうして、かあちゃんにお話をねだろう。
「どこへいっていたの、いたずらっ子よ。」
「おしえないよ、かあちゃん」
そのとき、かあちゃんとぼくとは、こんなことをいいあうでしょう。
「カブールからきたくだもの売り」収録のタゴールの詩
山室 静 訳
※ チャンパとは、プルメリアの花のこと
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