カブールの思い出

小学生の時に、課題図書というのがあり、選定された図書の中から2冊選んで購入をするというシステムがありました。(これは全国的に実施されていたかどうかは不明です)

小学校3年生の時に私が選んだ本は、「カブールからきたくだもの売り」という本でした。

カブールという言葉がとても神秘的に聞こえました。

アフガニスタンの首都カブールから、インドまで行商に来た男と、インド人の女の子のお話でした。

女の子は無邪気にくだもの売りと交流を深めていくのですが、女の子の父と母はそのくだもの売りのことを良く思っていません。ある日、くだもの売りはお金を払わなかったお客に暴力をふるってしまい、8年間牢屋に入ることになります。

牢屋から出てきた日、それはちょうどその女の子の結婚式の日でした。くだもの売りは女の子に再会をしますが、女の子は昔の事をすっかり忘れてしまっていました。

女の子の父親は、こんな晴れの日にと少しくだもの売りの事を迷惑に感じたりしたのですが、くだもの売りがずっと肌身離さず持っていた、自分の娘の手形を押したボロボロの紙を見て、「この男もこどもの親なのだ」と悟ります。

そうして、盛大に行なうはずだった結婚式の費用を削り、そのくだもの売りにお札を渡し、くだもの売りのその後の人生の幸福を祈ります。

・・・というあらすじです。

これを読んだ時、こどもは無邪気だし、そのくだもの売りだって純真な気持ちなのに、国籍が違ったりすると大人でも恐怖心を持ったり、猜疑心を持ったりするんだな、インドの方でもそういうのあるんだななんて思いました。

この本の作者が「タゴール」という人で、実はノーベル文学賞受賞者なのですが、本の後ろの解説にちらっと書いてるだけで、選んだ当人もこどもですから当然ノーベル文学賞なんて知りませんので、その本を選んで読んだ人は、自動的に小学3年生でノーベル文学賞作品を読んだことになります。

いや、私がすごいということを言いたいのではなく、さりげなく仕込んだ大人の意気込みというかやる気、センスがすごいと思うのですよね。

のちのちに「なぬ!ノーベル文学賞受賞者の作品だったのか!」と知った時の驚きはやはり本好きとしてはうれしいものがあります。

私も、実はすごいのにさらりと仕込まれていたんだとのちのち子供達に思われるような仕事をしたいなと思います。

本を読んで以降、テレビから聞こえてくる「アフガニスタンの首都、カブールでは・・・」というニュースではいつも紛争の話ばかりで、くだもの売りのニュースを聞くことはありません。

いつか、「今日はカブールのくだもの売りの話題をお伝えします」という明るいニュースが聞ける日を願って、アフガニスタンのそばで土地を緑に変える事業を行なっている中村哲さんを応援するために、ペシャワール会に切手を送り続けるつもりです。

カブールからきたくだもの売り  /  タゴール作・山室 静 訳 (旺文社ジュニア図書館)


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