日本のル・モンド

フランスの日刊紙「ル・モンド」は世界の五大クオリティー・ペーパーの一つだが、その発行部数はどんどん少なくなっていて、現在では30万部弱。だが、私はこの30万部という数字の中にフランスの底力を見る。

30万人弱のフランス人が日常的に「ル・モンド」を読んでいるなんて、日本ではありえないくらいにすごいことだと思うからだ。

藤原書店のPR誌の連載をまとめた加藤晴久『「ル・モンド」から世界を読む2001-2016』(藤原書店 3200円+税)は9.11から今日に至る「ル・モンド」の記事の紹介であると同時に、紹介者たる著者の「怒りの書」でもある。一つだけ引用しておこう。

2015.04のHSBC銀行のスイス子会社の秘密口座の名義人が「ル・モンド」と非営利の調査ジャーナリスト国際コンソーシアムICIJとの協力で暴露された記事の紹介。

「フランスだけでなく、スイス、イギリス、ブラジルなどでも大騒ぎになっている。だが、私の見ている日本の新聞は(3月5日現在)無言。ICIJが公表した秘密口座の持ち主リストには、超高名な日本人建築家の名が写真入りで載っている。金額は81万590ドル。日本人がもつ口座の総額は4億1990万ドル(500億円余)。「ル・モンド」や「ザ・ガーディアン」とちがってお上品で良識的な日本のメディアは、プライヴァシーと人権に配慮して、国税庁が脱税を指摘するまで、沈黙を守るおつもりのようだ。」

思うに、この推測は日本の新聞記者を買いかぶりすぎている。実情は「全然知らなかった!」。つまり「ル・モンド」が読める記者など一人もいなかったと言うのが正解なのである。

~中略~

「ル・モンド」の記事を定期的に翻訳するだけでも日本の新聞のレベルは格段にアップすると思うのだが・・・


以上、週刊文春2016年9月22日号「私の読書日記」/  評者・鹿島茂より抜粋

ル・モンドの記者は、フリーランス契約だとのこと。つまり、ル・モンドという組織の社員として書いているわけではないということ。これ、とても重要なポイントですよね。

しんぶん赤旗も、企業からお金をもらっていない。

日本のル・モンドは、しんぶん赤旗でしょう。(ちなみにしんぶん赤旗の購読者数は23万部(wikiより)) フランス人の人口は7千万人に満たないですが、日本のル・モンドも結構がんばっていると思う。


『ル・モンド』から世界を読む2001-2016  /  加藤晴久(藤原書店)