園芸家の一年

職場の近くの劇団の建物の中に、ちょっとしたグッズが置いてあり、先週カレル・チャペックの兄のヨゼフ・チャペックの絵が描かれたレター・セットがあったので購入しました。

チャペックといえば、園芸家としても知られ、また愛犬家には「ダーシェンカ」の人と言えばすぐわかりますね。チェコの作家です。

1995年辺りから2000年に入る前位の間に、ちょっとしたチャペック・ブームがあったと思います。(ガーデニングのブームと重なっていたと思います)

園芸だのワンちゃんだのが大きく取り上げられる存在ですが、ナチスがチェコに侵攻した際に、兄のヨゼフはゲシュタポ(ナチスの秘密警察)に捉えられ、アンネ・フランクも送られたという同じ収容所に送られることとなり、そこで生涯を閉じました。(死因は病死とのことですが)

カレルのほうは、兄が捉えられる前の年に亡くなっており、もし生きていたらカレルのほうも収容所に送られていたことと思います。

兄がゲシュタポに捉えられた理由というのが、ナチスを批判する風刺画を描いていたためとのことでしたので、同じようにナチスを批判する内容の小説なりエッセイを書いていたカレル・チャペックも捕まる対象になったと思います。

そのナチスを批判する内容の小説というのは、ジョージ・オーウェルの「1984」と匹敵するとの評もある「山椒魚戦争」というものなのですが、山椒魚が人間を侵略してくるというSFです。これは別の回にお話をしますね。

今日は「園芸家の一年」を紹介したいと思います。

出版社によっては「園芸家12か月」というタイトルで出されてもいると思います。

この本は、先日紹介した岩波少年文庫の「みどりのゆび」とは異なり、チャペックの個人的な庭への思い入れが語られている本です。構成は「園芸家の一月」「園芸家の二月」・・・というように、月ごとにやらなければならない庭仕事に関してのことなどが書かれています。

本当に庭仕事が好きでたまらない人向けです。

だってですね、庭仕事する時にやはりしゃがんでいることが多いんですよ。チャペックは「胴体なんてなければいいと思う」なんて言うわけです。

みなさんも、植物を育てている方々のブログをちらっと見かけたりすることもあると思いますが、「この子がうちに来たのは・・・」なんてノリ、わかりますか?植物を「この子」って・・・と引いてはいけません。私もちょっとそういう所があり、自分が育てている美しいバラは「〇〇様」とお呼びしたりしています(笑)

そういう好きで好きでたまらないという感覚があれば、この本は楽しめると思います。

たとえば・・・

~ よい土というものは、よい料理と同じように、濃厚すぎても、重すぎても、冷たすぎても、乾きすぎても、ねばりすぎても、固すぎても、もろすぎても、生すぎてもいけない。黒パンのようで、ジンジャー・ブレッドのようで、タルトのようで、堅焼きのパンのようでなければならない。小さく割れるようでなければならないが、こまかくなりすぎてはいけない。シャベルで掘ると、ざくざくするようでなければならないが、べちゃべちゃしてはいけない。層になったり、かたまりになったり、蜂の巣状になったり、クネドリーキ(チェコ版のお団子)のようになってはならない。

つまり、シャベルいっぱいにしてひっくりかえすとき、満足げにほっと息をつき、適当な大きさのかたまりになり、セモリナ粉のような表土になるようにくずれ落ちなければならない。

これが、おいしくて、食べられて、教養があって、気品の高い土、深々としっとりとして水はけがよく、息づいてやわらかい土で、要するに「良い土」なのである。

それは「良い人」というものについても同じだ。ご存知のように、この涙の谷とも言うべき人生において、これ以上にすばらしいものはない。~

どうですか、この境地は。私なんかは、声を出して笑ってしまう所なのですが、この世界観に付き合えるかどうかでこの本を読んでみようかどうか決められると思います。

「教養があって気品の高い土って何だよ?」と思うようでは、園芸を継続することは出来ないのです(笑)これ位狂わなければ(笑)

また、「園芸家の5月」では、ロック・ガーデンの魅力について語っています。

ロック・ガーデンというのは、石を使った庭のことです。丘のようになるように石を配置し、それらの石の隙間隙間に花を植えていきます。そのロック・ガーデンに合う花の名前を約1ページ使って書き連ね、

「これらの花々を苦労して育てたことのない人には、この世の美しきものすべてについて語らせるわけにはいかない」・・・ときたもんだ、です(笑)

~なぜなら、そんな人は、この荒々しい地球が、やさしく愛情豊かな時期に(それはわずか数十万年つづいただけだが)創造した、このうえなく優美なものを見たことがないのだから。

しかし、この感動はどう伝えられようか。ロック・ガーデンの育て主だけが、この宗派でなければ味わえない歓喜を知っているのだ。

そうなのだ。なぜならロック・ガーデンの育て主は、ただ園芸家であるだけでなく、収集家でもあり、したがって、重症のマニアの仲間に入っている。あなたがたの庭にカンパニュラ・モレッティアーナが育ったのを見せてやりたまえ。夜陰に乗じて盗みにやって来る。そのためには発砲ざたも人殺しも辞さない。なぜなら、その花なしでは、もはやこれ以上生きていられないからだ。~

・・・どうですか(笑)狂っているだろう(笑)


私がおススメするのは、平凡社ライブラリーの「園芸家の一年」です。巻頭に兄弟の写真や庭の写真が入っています。また、岩波少年文庫とほぼ同じ判型なので、兄ヨゼフの挿絵も1ページ使ったりして大きく見られます。

終わりのほうには解説と、本に出てくる花々や野菜の索引が付いています。

おそらく廉価版ということで一番売れているであろう中公文庫ver.と比較をした場合、一度買った人はこちらに買い替える価値があると思います。

中公文庫ver.ですと、表紙はチャペックが「胴体なんてなければ・・・」と思う、かがんで土をいじっている人の挿絵が使われていますが、この平凡社ver.のほうは、手が6本ついている人の挿絵が表紙として使われており、それぞれバケツを持ったり、スコップを持ったり、じょうろを持ったりしています。(わかります!やること多すぎるのです!) こっちの表紙のほうが、本の中身を表しているかな。

・・・庭はいつになってもけっして完成しない。その意味では、庭は人間の社会、および人間のいとなみのすべてに似ている・・・ とのことです。



園芸家の一年  /  平凡社ライブラリー(カレル・チャペック)  /  解説:いとう せいこう



写真の右が兄のヨゼフ・チャペック、左がカレル・チャペックです。







カラー写真で見てみたいですね。



兄弟の生家の近くには、銅像が建てられているそうです。カレルはジョウロを、ヨゼフはスケッチブックを手にしているそうです。



兄ヨゼフのデザインのレターセットです。



沖縄の希少動物のヤンバルクイナのレターセットも買いました。