ある提案
カレル・チャペック小品集「こまった人たち」から「ある提案」という短い5ページの作品の中から抜粋します。(一九三七年の作品)
名誉ある財務省 御中
わたしは二年前に年金生活に入りましたが、それまでの三十五年間、税務関係の差押人として、忠実、かつ良心的に勤務してまいりました。
その年月の間、わたしは豊富な経験を積んだので、ほかの財政専門家の大部分よりも、自分の専門分野の問題点を熟知していると言うことができます。特に、わたしが経験したところでは、わたしが知ったほとんどすべての人たちは、税金を払うのを喜ばないか、自発的でないか、いやそれどころかはっきり嫌がっているか、です。
ーーーわれわれは闇雲に税金を払っている、またはなんのために払うのかわからない、あるいは「こんなことにわれわれの税金が使われる」のに、われわれの地元の道路改修のための金はないなんてーーーというようなことです。
そこでわたしの判断によれば、ふつうの納税者が税金を払いたがらない理由の一つは、名誉ある財務当局が苦労して徴収したその金を、一体何に使うのか想像できないことです。つまり、それらの金が公共の繁栄とか納税者自身が同意するような目的に向けられるかどうかについて、皆がなんらかの不信の念を持っているからです。
自分自身の経験に従い、かつ長いこと考えた結果、わたしは次のような結論に達しました。
ーーーこの事態を解決するのは難しくない。納税者のそれぞれが、自分が払う税金がなにに使われるか書かれた納税通知書を直接受け取るような状態をご想像ください。---
カレル・チャペック / こまった人たち(平凡社ライブラリー)より
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