もしも、わたしが・・・
もしも、わたしが
恐竜は死んではいない、と言い、
いま、おもてにいるよ、到着してほやほや、
元気いっぱい歩道ぎわに止まったところさ、
何とすばらしい!と言ったとしたら、
あなたはどうするだろう?
ふん、と鼻を鳴らすだろうか、笑うだろうか?
でも、もしかしたら本当かもしれず、
あてにならないとわかっていても
万が一を思って、
あなたはかけだしはしませんか?
そう、それがあなた、それがわたしだ。
大昔の怪獣は、わたしたちの夢につきまとい、
子どもの頃の計画は怪獣たちでかさばっている。
男の子も女の子も、
いや、たいへん年をとったおとなでさえ、
奥歯の金の半分ぐらいとならよろこんで引き換えにして、
恐竜が
通りのまん中でくつろぐ姿に
目を見はることだろう!
そこへ交通巡査がするすると止まり、
みんなが見とれるなか、
手帳になにやら書きこむと
駐車違反の罰金を、恐竜にむかってつきつける!
気が変なわけではない、法の番人として
書きとめる手つきはおちついたもの、
記録したのは場所と時間だけ、つぎには-----
下のほうからキップをわたして、
「二度とやるなよ」と巡査はいう。
プロントサウルスは去ってゆく、
キップを口に、ちょっぴり笑みまでうかべて。
そのうち巡査は思いあたる、
ショッピング街をかけもどり、さっきの場所を見る。
大怪獣がごろんと寝そべり、
目をまるくした子どもたちが有頂天で、
こいつ、すごいなあ、と
うなずきあっていた場所を。
それから、みんな帰ってゆく------
おどろきとおそれに胸ふくらませ、きょう見たことを、
本当にすばらしいできごとを
話して聞かせるために。
あのおまわりさん、おそすぎたね!
なんだい、あれは?
前世紀のトラックみたいのをつかまえたはいいけれど、
ふしぎに思わなかったのかな?
あの雷みたいなうなり声を。
さて、駐車場はもうがらんとして
大きな山はどこにも見えず、
落書きめいた糞がちらほら芝生に落ちているばかり。
それは清掃局が見つけてかたづけるだろう。
そして、あの美しい生き物がいたのかどうか、
それは子どもたちにさえ証しようがない。
~もしもわたしが、恐竜は死んではいない、と言ったとしたら~
(What If I Said : The Dinosaur's Not Dead?)/ 1983
Written by Ray Bradbury
恐竜物語 / レイ・ブラッドベリ 伊藤 典夫 訳(新潮文庫・絶版)
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